ラプンツェル・ザ・シリーズは満点

 

 

以下、ヴァリアン好き以外の方には苦痛な文章です。

 

 

 

 


まずはストーリーを追って感想を述べていきます。
※ヴァリアン推しの者視点です。ご承知おきください。

 

 

■■■



21話の冒頭。

黒い岩の件で、ラプンツェルフレデリック国王に「黒い岩は解決したも同然」とまったくの嘘をつかれていたことがわかり、ショックを受けます。
そして、城から抜け出し、船の上で消息不明だったヴァリアンと再会します。

大雪の日以降、ラプンツェルは巻物に関する手紙だけ残し、姿をくらませたヴァリアンを心配していました。
ついに黒い岩に覆い尽くされかけたコロナの現状を知ったラプンツェルに、神妙な面持ちでヴァリアンは訴えます。
「どうして助けてほしいかわかっただろう?」

 

 

地下道に張り巡らされた罠をくぐりぬけ、いよいよ太陽の花を持ち出そうとしたとき、ヴァリアンの裏切りが発覚します。

問い詰めるラプンツェルに、「最初は助けてほしいって頭を下げた!でもみんな無視したじゃないか!だからこうするしかないんだ!」と、初めて本心を吐露するヴァリアン。
それに対し、「あなたの言うことを信じた!」だからこんなことやめましょうと言うラプンツェル
お互いの主張が激しく、会話が成立していません。
ラプンツェルからしてみれば、約束を破ったことを謝った際に、ヴァリアンはそれを了承してみせたので、仕切り直してふたりでなんとかしようと彼を信じた。
ヴァリアンからしてみれば、謝罪を受け入れたように見せかけたのは、あくまでラプンツェルを利用して太陽の花を盗むためであって、私情を押し殺して合理的な方法をとったにすぎない。
過去を精算し先に進もうとする者と、過去に受けた行為を引きずる者。
決定的なズレが生じています。
辛そうな表情を見せて「…ごめんプリンセス。でも君は前にも約束を破った。そうだろう」と、ラプンツェルを信用できないことを告げます。2度目の糾弾。そして再び行方をくらますヴァリアン。

 

 

城の自室に戻り、意気消沈するラプンツェル

国を裏切ったこと、国王の言いつけを破ったこと、何よりも許せないのは太陽の花をあんなひとに渡してしまったことに落胆します。ヴァリアンの気持ちが、もうわからないという。
そして、自分を利用したヴァリアンを『情緒不安定な魔術師』と揶揄します。
このとき、どちらかというとラプンツェルの方が情緒不安定なので、ブーメランになっているのがうまいなと思いました。(ラプザは米国アニメなだけあって皮肉な表現がちょこちょこ入りますね。ユージーンのカサンドラに対する「死んだような目をした冷血動物」ジョークとか)


最悪な19歳の誕生日を迎えたラプンツェルですが、誕生日プレゼントの山に、目を引くものをみつけます。
オルゴールと差出人不明の手紙。
置かれていた手紙の通り、「wind me(回して」をしてみます。
すると、オルゴールはラプンツェルの言う通り「不気味な曲」を奏で、機械人形の起動スイッチとなり作動します。
仕掛け人であるヴァリアンの精神状態を映し出すような、心をざわつかせる不穏な音色。


カサンドラたちと協力し、襲い掛かってきた機械人形を退けたラプンツェル

果敢に戦った彼女に、フレデリック国王は「ラプンツェルを監禁する」と告げます。

また、「あの少年は危険だ。罰を受けさせるから安心しろ」とも。
ここの「ラプンツェルの安全を守るためなら、どんなことでもする」というフレデリック国王を、傲慢だなあと思わざるをえなかった。ストーリーを振り返って見ると、黒い岩について諸悪の根源はこの人といっても過言ではないんですよね。
アリアナ王妃が「お父さんのやることは極端で受け入れられないかもしれない。でも愛情から出たものよ。そうは言ってもいいことじゃないわね。」とラプンツェルを諭します。
父と娘が冷静さを失っている中、彼女がふたりの中立の立場で、客観的に状況を見ているところが唯一の救いでした。コロナの良心。

 


場面はカサンドラ父子に移ります。
プリンセスを危険な目に合わせた経緯から修道院に入れられることになり、悲痛な面持ちのカサンドラを、お父さんは「この脅威が去って、国が落ち着きを取り戻したら、きっとまた城の仕事が与えられる」となだめます。
それに対し、カサンドラ「私はお父さんみたいになりたかったの。衛兵として、この国のために尽くしたかった。…自慢の娘って言われたくて。」と、自分の本心をお父さんに打ち明けます。
「できることは何でもしようって心から思ってたの。お父さんを喜ばせるためなら、どこまでも行くつもりだった。…お父さんにがっかりする日が来るなんて、夢にも思ってなかったわ。」と、失望した様子で城から出ていきます。
ヴァリアンの行為が原因で、カサンドラ修道院へ行くことになったのが切ない。


その直後、ヴァリアンの襲撃により、城の周囲がガスに覆われます。
ここで国民は、ヴァリアンのアナウンスで初めて国に危機が迫っていることと、国王が国は安全だと嘘をついていたことを知らされます。
あと何日かで、国中が黒い岩で覆われることも、国の外れの村ではとっくにそうなっていることも。
そして3度目の「前に助けを求めたけど無視されたんだよ。でもいいか。もう二度と無視なんかさせない。ちゃんと話を聞いてもらうために…」というヴァリアンの糾弾。
どれだけ我が国のプリンセスが冷酷で、無責任かを国民に知らせようとするかのように。
このときのラプンツェルは、「無視なんてしていない」と酷くショックを受けているようでした。


この後も、シリアスな展開が続きます。
モンスターに改造されたかわいそうなルディガー。
重傷を負う衛兵隊長。
「どうも、お妃様。…おやすみ」と緑のキラキラを放つヴァリアン超魔術師っぽい。
さらわれるコロナの良心ことアリアナ王妃。
ヴァリアン絶対殺すマンな顔つきのラプンツェル etc…
キーボードが追いつかない。


そして、場面はヴァリアンの研究室へ。
王妃はラプンツェルをおびき出すための餌だと告げるヴァリアン。


「最初は礼儀正しく助けを求めた。でも誰一人力を貸してくれなかっただろ!だから残念だけど僕に残された方法はもうこれしかない」

 

繰り返される4度目の糾弾。

アリアナ王妃の「お父さんを助けた後はどうするのか」という問いに、「コロナには僕を無視した報いを受けてもらおうか。そのときは心配するんだね。お妃様…」と新たな目論見があることを酷薄に言い捨てます。

復讐心は留まることを知らず、徐々にエスカレートしていく。

 


正直、ヴァリアンが想像以上にコロナという国に執着していて驚きました。

『悪いやつ』(『Ready As I'll Ever Be』より)を体現してやろうとしているけれど、ヴァリアンが必要以上の暴力に及ぶ性格だとはとても思えなかったからです。
きっと、お父さんを救った後は、国に反逆した罪を背負って自分から追放される道を選ぶか、自首して罪を償う道を選ぶと思っていました。
たしかに、見て見ぬふりをする城の人間たちや、無力な村の人間たちに失望していたはずです。
それでも、彼の性格上、やはり無関係のコロナの村人と市民を巻き込んで報復するようなメンタルは持ち合わせていないと思うのです。
結果論掃守れませんが、実際に損害を与えたのは、ラプンツェルたちや衛兵など城の人間に限られていました。また、かろうじて殺人までは犯さなかった。

ただの願望でしかないけど、そう思いたい。
ただひとつ言えるのは、お父さんを失いかけた今、コロナには居場所がないと感じているヴァリアンの孤独と心の闇が垣間見えた台詞だったということです。

 


国の異変に気づき、城へ押し寄せる国民に対し、国王は「市民は家族だ」と呼びかけます。
そして、国民にも協力を仰ぎ、ヴァリアンへの攻撃策を講じ始めます。

コロナの外れの村へ、総攻撃をしかけるつもりで。
やはり、声の大きな者=権力者の言葉の威力は絶大だなと思うのです。
大雪の中、自分の命も顧みず、城の人間たちに助けを求めたヴァリアンの声は誰にも届かなかったことを思い出します。善良なプリンセスがいる世界であろうとも、つくづく世間は平等ではないのだなと。
22話でラプンツェルが国王に黒い岩の危機が迫っていると訴えるも、もう解決に向かっているとかわされ、「でもこのままじゃコロナは危ない。だけどみんな知らん顔してる。私一人だけ騒いでいるみたい」と憤る場面がありました。
その前に、少しでもヴァリアンのことを思い出してほしかった。同じ焦燥と怒りを感じている人間が、もうひとりいたことを。

 


ヴァリアンの研究室に侵入するも、罠にかかり捕らえられてしまうラプンツェル父子。
ヴァリアンはシニカルな態度でふたりを弄びます。


「命令だ。我々をすぐ自由にしろ。王妃の場所を教えるんだ。」
「あぁ国王陛下。本当お気の毒ですね。あなたは人生で初めて人に命令できる立場じゃなくなったってことさ。」
「でも僕は優しいから半分は聴いてあげよう。」
「お母さまを放して!お願い!」
「その前に僕のために働いてもらおう」
「何が望みだ!」
「ああ!やっと僕の気持ちを考えてくれたのか、ハッハ!大切なものを全部危険にさらした後で、ようやく」

 

5度目の糾弾。

ヴァリアンは、何度も何度もくり返し「ラプンツェルが自分の信頼を踏みにじった」ことを主張していました。それは免罪符を掲げているわけではなく、『やられたからやりかえしている、当然の報いだ』という真っ向からの反抗でした。
ヴァリアンをここまで追い詰めたのは、コロナに関わる全てなのでしょう。
船の上での再会後、ヴァリアンは「国を守らなきゃならなかったんだ、しょうがないよ」とラプンツェルの事情を察し、理解を示す素振りをしていました。
でも、その裏で『ほとぼりが覚めてもなお、僕の助けを無視し続けていたプリンセス』に絶望していたはずです。
魔法の髪を持つプリンセスならば。
数と力を兼ね備えた衛兵たちならば。
たったの一声が決定力を持つ国王ならば。
お父さんを助ける選択肢がいかようにもあったはず。
ないがしろにされた少年に残されたのは、相変わらず自分ひとりと、コロナへの憎悪。
強力してくれる仲間はいない。
無力な自分の取れる方法は、誰を、何を犠牲にしてでもお父さんを助けること。今度はお前たちが犠牲を払う番だと。


抵抗のすべもなく、ヴァリアンの要求を受け入れるしかないラプンツェル父子。
『ドリルにラプンツェルの髪をセットすれば恐らく琥珀を粉々に砕き、父さんを自由にできる、逆にラプンツェルが粉々になる可能性もある』とわざとらしく淡々と説明するヴァリアン。
「そんなことはさせない!」と憤るフレデリック国王を「命令はできないわお父様。」となだめるラプンツェル
「その通りだ、お父様。ああ!忘れるとこだったよ!時間があまりないから急いだほうがいいよ。」
ヴァリアンがアリアナ王妃の近くの黒い岩に薬品をたらし、琥珀を仕向けます。どこか複雑な表情で。
「ヴァリアン。もしもうまくいかなかったとして私に何かあったとしても、お願いだからお母様だけは助けて」
「悪いけど約束はできない。プリンセス。」
またしても、ヴァリアンは苦しそうな表情を浮かべます。

 


「なんで!どうしてだ!」
ラプンツェルが魔力を奪われ意識を失いかけるそばで、ドリルでは琥珀にひび一つ入れられないことに取り乱すヴァリアン。
「なんで!いったいどういうことなんだ!どうして!ラプンツェルの髪でなら壊せると思ったのに、なぜうまくいかない!!」


隙を見て、ルディガーがパスカルを檻から開放し、フレデリック国王の足元を固める化合物を溶かします。孤独に立ち回り、悲しみに暮れてボロボロになっていくヴァリアンを、ずっと心配していたのでしょう。
フレデリック国王がアリアナ王妃に剣を投げ、足枷を壊します。
そして、倒れたラプンツェルのもとへ駆け寄る両親。
お互いをいたわり抱きしめ合うラプンツェル親子と、いまだに琥珀に閉じ込められたままの父親の光景にヴァリアンはますます平常心を失っていきます。


「そんなどうして…僕は間違ってない。そう!僕のせいじゃないんだ!!僕は悪くない!!悪いのは…あいつさ!!!」

「ヴァリアンはどこへ行ったの?」
「悪いねプリンセス!ここまでいっしょにやってきたんだ。辛い結末を迎えるなら君だって同じだぞ!」


幸せな家族の光景を見せつけてくるラプンツェル親子に耐えられず、機械人形で襲ってくるヴァリアン。
唯一の希望の光が絶たれ、自分はこんなに苦しんでいるのに。
ラプンツェルだけ光の当たる場所にいられるのが許せない。

 


「あああああーー!」
剣を振りかざし、迷いなく立ち向かってくるカサンドラを捕まえて締め上げるヴァリアン。
「やあ!カサンドラァ?君を抱きしめたいと思ってたんだぁ、ギュッと!」


破壊衝動に駆られ、もはや正気を失ったヴァリアンは、アリアナ王妃も捕らえます。
大切な人たちが傷つけられ、とうとう我慢の限界を迎えるラプンツェル


「もう十分よ、ヴァリアン」
「いいや、まだまだだね。僕と同じだけの苦しみと絶望を、君に味わわせてやる!」


ますます強く、アリアナ王妃とカサンドラを締め上げます。
すると、ラプンツェルの感情の高ぶりに共鳴するかのように、黒い岩が動き出します。
不思議に思いながらも、黒い岩を操り、ヴァリアン入りの機械人形を倒すラプンツェル
「そんな!!」あと一歩のところで壊される機械人形と絶叫するヴァリアン。
自分の大事なものを滅ぼそうとした、国家の敵であるはずの少年を見下ろし、ラプンツェルは切ない表情を浮かべます。


手錠をかけられ、両脇からふたりの衛兵に連行されるヴァリアン。
衛兵は危険人物を見る目でヴァリアンを警戒しています。
牢に入れられたヴァリアンのもとに走り、いたわるように肩に乗り頬を撫でるルディガー。
ヴァリアンは怨念のこもった表情で「自慢の息子になってみせるよ、父さん」とつぶやきます。
「…たとえ、どんなことをしてでもね……」と、静かに怒りの炎をくすぶらせて。

 

 

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■ヴァリアンについて


本来、ヴァリアンは賢くて優しい少年です。
1話ではラプンツェルの髪の謎を解くために発明品を使って協力し、8話ではカサンドラのために進んで侍女の仕事を肩代わりしてくれます。
そんな善良な少年が、なぜ数々の残酷な方法をとったのでしょうか。
恐らく、ヴァリアン本人がそれだけ残酷な仕打ちをされたと感じたからだと思います。
頼りにしていた相手に助けを求めたが、その相手の判断で切り捨てられてしまった。
裏切られたと感じた。優しいままでは大切なものを守れないと気づき、悪役にならざるを得なかった。


「ああ!逆にラプンツェルが粉々になる可能性もあるってことだよ?性質が似てるから…」


自身の研究室でラプンツェル父子を捕らえたヴァリアンは、『ドリルにラプンツェルの髪をセットすれば、恐らく琥珀を粉々に砕き、父さんを自由にできる』と説明しながら、事も無げに恐ろしい言葉を言い放ちます。
ラプンツェルを、まるで使い捨ての道具のように扱おうとします。
そして、言うことを聞かせるために、アリアナ王妃を琥珀化させ父親と同じ目に合わせようとします。


ラプンツェルは、殺されるに値するほどヴァリアンにひどいことをしたのでしょうか。友人より、国を優先したことが間違いだったのでしょうか。

ラプンツェルの命を犠牲にして、父親を助けるだなんてことが許されるのか。
明らかに、ヴァリアンの行為はやりすぎです。
それでも、ヴァリアンが受けた苦しみは、ヴァリアンにしかわからない。
また、何か行動を起こさなければ、今でもヴァリアン父子に救いの手は差し伸べられなかったのも事実だと思うのです。

 


ヴァリアンについて、1話でカサンドラは『デンジャラス』な魔術師だという噂を聞いていました。
あまりいい評判ではありません。

このことから、コロナの外れの村で、ヴァリアンは異端児扱いされていたことがうかがえます。
どうりで黒い岩の件で家族が大変だったとき、村人に協力を仰げなかったわけだなと思いました。
しかし、あれほど類稀な科学の才能を持つ少年が、なぜ人々からの信頼を得られなかったのか。
恐らく、人前で成功した経験がないからではないでしょうか。
父親であるクウィリンは、黒い岩の撤去を試みようとするヴァリアンに「この岩に手を出すな」「岩に触れるな」と釘を刺します。

十分、力と才能は備わっていたものの、父親がそれを発揮することを妨げていた。

おそらく、息子の安全を思うばかりに。

 


ヴァリアンの発明品は、彼のエキセントリックなキャラクターからは考えられないほど、現実的なものばかりです。

ラプンツェルの髪の謎を解く高性能分析器、大型湯沸かし器に元素変換機、酸性を中和する薬品に掃除用の薬品への応用、明かりを灯す化合物。
よく見ると、日常生活に根付いたものばかりです。
(ちなみに、科学展覧会では、見栄えばかりで用途不明な球体浮かし機に、「これ、何に使うの?」と本気で理解できないという様子でした。)
ヴァリアンの発明品の根源にあるものは、誰かの役に立ちたいという気持ちなのでしょう。

しかし、クィリンは我が子を心配するあまり、チャレンジする機会を与えず、成功の目を摘み取ってしまっていた。
それでも、クィリンを過干渉で行き過ぎた父親だと責めることはできません。
彼の妻、つまりヴァリアンのお母さんは作中不在の人物です。肖像画の中にだけ登場する、謎に包まれた人物。
恐らく、ヴァリアンの家庭は親一人子一人で、クィリンは男手一つでヴァリアンを育ててきたのでしょう。
母親がいない分も、人一倍、息子のことを大切に思い愛情を注ぐ父親だったはず。
だからこそ、息子が危険な目に合わないように、他人から恨みを買わないように、過保護に育てたのでしょう。
しかし、親の心子知らずとは言ったもので、ヴァリアンはいつも父親に褒められたくて何度もチャレンジをする。でも、それがすべて裏目に出てしまう。
きっと、クィリンが望んでいるのは、ヴァリアンが思い描く『自慢の息子』ではなく、『危険なことをしない聞き分けの良い息子』なのです。なんだかラプンツェル親子と似ている。

 


でも、ヴァリアンは父親に認められたい。周囲の人々の役に立ちたい。
その力を証明する機会をずっと望んでいた。だからこそ、科学展覧会にかける思いは相当な強さだったに違いありません。


「勝てたはずなのに」
「別にいいんだ。正直言うと、きみを感心させたくてやったんだよ。何かすごいものを作れば、才能を認めてもらえるかもしれない…そんなふうに思ったんだ。僕は間抜けじゃないって」


優勝を逃した後の ヴァリアンとカサンドラの会話です。
自分の力が認められないことに、コンプレックスを抱えていたことをカサンドラに告白します。
みんなの前では明るくマイペースに振舞っていたヴァリアンは、自分がおかしてきた『ほんの小さな間違い』も『ぬぐい切れない大きな失敗』も忘れられず、胸にわだかまりを残したまま生きてきました。
いじらしすぎて泣きそう。
ふと思うのは、誰かひとりでも父親を失いかけて不安でしょうがなかったヴァリアンの気持ちに寄り添っていたら、ここまで暴走することはなかったのではということです。
本人から涙ながらに助けを訴えられたラプンツェルや、自分の名前を冠した元素を贈られるほど好意を寄せられていたカサンドラが、ヴァリアンに対する感情がそこまで薄いものだったとは思えないので、余計に。

 

 

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カサンドラとのヴァリアン


ずっと『自慢の娘』になりたかったカサンドラ
「お父さんの自慢の息子あるいは娘になりたい」という共通の目標を掲げていることを打ち明け、シーズンを通して交流を深めてきたヴァリアンとカサンドラ
似た者同士、名コンビになれる。
なれ合いを嫌うカサンドラでさえ、軽快にそう口にしました。
自分の命を救ってくれた憧れの女性から、そんな親しみを込めた言葉をもらって嬉しくないわけがないのに、「勝手に決めつけちゃってもいいわけ?」と挑発的な返しをするヴァリアン。
そんな反応ですら好ましそうなカサンドラ

楽しいかけ合い。お互いがありのままの自分を見せられる存在になっていく過程が、丁寧に描かれています。
1話では、ラプンツェルの髪に興味津々で興奮するヴァリアンに、カサンドラは「髪の秘密は誰にも言わないで」と胸倉を締め上げ、居丈高に命令していました。

ただの村人の少年と、国の衛兵隊長の娘でありプリンセスの侍女という身分差のある立場なのです。
それを飛び越えて、対等な立場で心を通わせたふたりに、友情以上の関係性を見出だした視聴者は少なくないでしょう。


そんなふたりが、黒い岩を契機として決定的に道を分かたれることになります。
これまでヴァリアンにとって、父親から信頼されることがすべてでした。
それが、ラプンツェルたちとの出会いによって、変わり始めます。

髪の秘密を共有し、お互いに協力しあう関係になりました。特に、『自慢の息子あるいは娘』になるという共通の志を持つカサンドラとは、特別な絆が芽生えていました。
では、なぜカサンドラに頼らなかったのか。
黒い岩の件で、ヴァリアンとカサンドラが会話する描写は一切ありません。不自然なまでに。
あるのはラプンツェルとヴァリアンのみです。なぜでしょうか。
憧れの女性に対するプライド?緊急事態だったから?
人一倍、独立心が強い少年だったからではないでしょうか。

 

 

ヴァリアンが『小さな間違い』や『大きな失敗』を起こすのは、周囲の人間に相談する前に行動に移すためなのではないのかなと思うのです。

『自慢の息子になる』という目的ために、まずは自分ひとりの力でできる限りのことをする。
元素変換機が暴走したときも、危険な状況を顧みず、ひとりで止めに行こうとしてカサンドラに引き止められていました。

本当に手も足も出なくなったときは他人を頼るけど、完全には任せず、自分から率先して役に立とうとする。
父親を含めた村の誰からも理解されないという境遇も手伝ったのではないでしょうか。
元素変換機の暴走時、ヴァリアンは『この発明品は城も人間も吸い込んで何もかも消滅させてしまう』というリスクがあるとを叫んでいました。

正しい使い方をすれば生活の役に立つ素晴らしい発明ですが、一歩扱い方を誤れば国一つ滅亡させられるリスクを孕んでいます。
そしてそれはヴァリアンにもあてはまっており、賢くて優しい少年も、信用を損なえば危険人物になりうるということが示唆されていました。
国を滅亡させられるような力を持つ存在、あまつさえ年端のいかない少年などは、普通の大人からしてみれば畏怖すべきものです。

村中から厄介者あるいは異端者として扱われる境遇で、承認欲求を抱え込んだ独立心の強い性格が形成されていったのではないかと思います。
そんな性格のヴァリアンが、なりふり構わず助けを求めたときに限って、無視をされてしまったことは本当に悔やまれる。
また、そんな不言実行タイプのヴァリアンが、8話でカサンドラにアシスタントを頼んだ動機は、純粋に彼女と仲良くなりたかったからだと思うとたまらなくなる。

 


カサンドラが夢を叶えるには、国の平和を脅かすヴァリアンの存在を打ち砕かなければならない。
ヴァリアンが野望を突き進むには、国の守護者であるカサンドラの存在を排除しなければならない。
国を守りたい者と壊したい者。
カサンドラは、お父さんから兵の統率を任されたときに自負し、勇気を与えられたはず。自分は『自慢の娘』になれたのだと。願いは実を結ぶ。
ヴァリアンは、自慢の息子になれない。なぜなら、認めてくれるはずのお父さんは生きているかも死んでいるかもわからない。自身の暗い感情を吸収し、欲望は肥大化していく。願いは叶わない。
皮肉にも、ヴァリアンが大切な存在を失ったことが、カサンドラの夢が叶うきっかけを与えた。
かつて似たもの同士だと心を通じ合わせたふたりは、真逆の道に進むこととなってしまった。
辛い。辛すぎる。

 

 

結局、一度もヴァリアンの方から『キャシー』と愛称が呼ばれることはありませんでした。呼べなかったんだろうなあと思います。

『キャシー』は、カサンドラから贈られた、大切な大切な親愛の証でした。
全身全力を注いだ(存在証明をかけたと言っては言いすぎでしょうか)発明品・カサンドリウムと引き換えにもらった宝物。
『悪いやつ』となってから、捕らえたフレデリック国王を「その通りだ、お父様」と揶揄し、ラプンツェルを「プリンセス」と侮蔑するかように呼ぶようになったヴァリアンが、カサンドラのことだけは『キャシー』と呼ばなかった。

他の人とは違うと言ってくれた、自分だけに彼女が許した特権を、ただの挑発の道具になんてできなかったのではないでしょうか。


「ねえヴァリアン。友情より自分の野心を優先させたわ。ごめんなさい。」
「ううん。いいんだよカサンドラ。」
「そうだ。キャシーって呼んで。」
(嬉しそうにはにかんだあと、照れをごまかすように首筋を撫でて)「よぉし。急いでがれきを片付けないと!」


元素変換機の暴走から、国の一大事を食い止めたときのふたりの会話です。
このときは、カサンドラに受け入れてもらえた嬉しさだけで胸が満たされてしまって、呼べなかったのでしょうか。
年上のカサンドラを『お嬢様』と呼んだり、ラプンツェルを『プリンセス』と形式張って呼ぶなど大人ぶった真似をして見せるのに、いざ相手からアプローチされたらとまどってしまう。

いつもマイペースで人を振り回す側のヴァリアンが、思春期のティーンらしく憧れの女性に照れているのがほほえましかった。
後にしてみたら、呼ぶ機会はここしかなかったのですが。

もしも、剣を向けてきたカサンドラのことを『キャシー』と呼んでいたら。

きっとカサンドラは「友達みたいにその名を呼ぶな」と『キャシー』を取り上げたでしょう。

賢いヴァリアンのことだから、『正義感の強い彼女は、きっと今の僕の何もかもを拒絶するだろう』と考えたはずです。

だから、敵対しているときでさえ引き合いにできず、呼べなかった。
敵対してもなお、ヴァリアンは大好きだったカサンドラに拒絶されたくなかったのだと思います。そんな臆病さがうかがえて、いっそう切なさに拍車をかけてくる。
善であろうと悪であろうと、ヴァリアンは憧れのカサンドラと対等になりたくて、弱い部分を見せたくなかったのかもしれません。

 

 

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■脚本が完璧な理由


最終的に、ヴァリアンは改心しませんでした。
なぜなら、お父さんを琥珀から解放するという悲願を達成していないから。
それどころか、ヴァリアンはよりいっそう闇を深くする。
今回はラプンツェルの髪を利用するというやり方が間違っていただけ。次は必ず、どんな手を使ってでもお父さんを助けると。

 


公式はヴァリアンを非常に慎重かつ丁寧に描写しているなと感じます。
キャラクターの造詣ついて、ラプンツェルたちと照らし合わせるようにして、綿密に練っていると思う。
ヴァリアンは一貫して、自分の主張を繰り返し、迷うことなく自分の信じる正義をぶつけます。
「運命に立ち向かえ」とラプンツェルに現実を突きつける存在。
主人公にとって都合のいい道具にならないのです。その代わり、都合よく救われもしない。
絶望のどん底に落ちた人間は、簡単には救えないから。
ラプンツェルたちが、馬車の牢に連行されるヴァリアンにかける言葉はありません。今のヴァリアンに自分たちの言葉は届かないことをわかっているからでしょう。
しかし、今度は彼と彼の父親を必ず救うと決意します。
ラプンツェルは、「ヴァリアンにひどいことしないであげて」とフレデリック国王に頼みます。それに対し、フレデリック国王は「安心しろ。ヴァリアンを助けるためならなんでもする。クィリンのことも。あきらめずに何か方法を探してみよう」と力強い声で約束します。
今度こそ、その場しのぎの言葉ではなく、行動で示そうとするのです。


改めて、公式はラプンツェルを『完璧なプリンセス』として描いていないのだと感じました。
ラプンツェルは、ヴァリアンとの約束を反故にしたあとでも、ヴァリアンの気持ちがわからない、『情緒不安定な魔術師』だと揶揄し非難します。感情的になっていました。
本当の意味で、ヴァリアンの視点になれたのは、自分のお母さんが琥珀に取りこまれそうになってからだったのではないでしょうか。
でも、人間はそんなものだと思う。
ラプンツェルは、そのとき自分ができることを一生懸命行う頼もしい女性です。

プリンセスである前に、自立した人間になりたいと願っています。
いっしょに太陽の花を盗むために行動したときには、自分より小さな年下のヴァリアンを庇護対象として、身を挺して守っています。初対面で恭しく『プリンセス』と自身を呼ぶヴァリアンに「ラプンツェルでいいわ」と友好的に接します。
実は、大雪の日以降、ラプンツェルは音沙汰なかったヴァリアンの行方を、夢に出てくるまで気にしなかったのではないかと少しひっかかっていました。
しかし、ヴァリアンと再会したときには「どこに行ってたの、ヴァリアン」と、まず抱きしめて喜びと安堵の表情を浮かべていました。

彼を探しに行こうという考えはずっと頭の片隅にあったのかもしれない。危険人物に会うのは禁じられていたので、それは叶わなかったけれど。
すべてにおいて、タイミングが悪すぎました。

 


フレデリック国王についても、娘思いであるがゆえに傲慢な人物として描かれていました。
国民を家族だと口にする一方で、本当の家族であるアリアナとラプンツェルのために、天秤にかけて後者を選んでしまう。

しかし、自分の過ちを認め、ヴァリアンの嘆きと心中に触れてからは「絶対に助ける」と、もしかしたらラプンツェル以上に強い意志を込めて約束する。いい意味でも悪い意味でも人間らしい人物です。

 


正直、ヴァリアンの気持ちを無視して被害者意識を持つラプンツェルには違和感がありました。

でも、彼女はまだ19歳になったばかりの成長過程のプリンセスだった。悩みながらも自分の信念を曲げず、敗者となったヴァリアンの身を案じる彼女を、本心から大好きになりました。

 


本当、色々なものが遠くまで来てしまったなと思う。
私はアマプラ配信の事情で8話からヴァリアンを知ったけれど、ヴァリアンに対する印象は『科学オタク』で『カサンドラに憧れている』『ちょっと気取ったところがあるティーンエイジャー』でした。
あんな細っこくてちょっとドジな科学を愛する穏やかな少年が、ヴィラン堕ちしてあまつさえラスボスになるだなんて予想できるわけがなかったです。
反面、精神的に健康かというとそうでもなく、「僕のことは大丈夫」「別にいいんだ」などと自分を押し殺すところがあり、繊細な面も持ち合わせている少年だという印象も受けました。
黒い岩の騒動におけるヴァリアンの行為を独善的だと断定するには、事情が複雑すぎます。
同様に、ラプンツェルたち国側の対応や行為を責めるのも、国全体にとっての損失を考慮したまでであって、間違っていたと非難することはできません。どちらも正しくて、どちらも間違っていました。
ここでくると、気づきます。ラプザにおける善悪の概念は、人それぞれなのだと。登場人物の数だけ善悪の概念があるのだと。


本当、公式の脚本には信頼しかない。

 

 

唯一残念だったのは、、カサンドラからのヴァリアンへの感情の描写が少なかったことでした。

ただ、S1ではあえて描写しなかった説が濃厚だと思っています。
黒い岩が(ほぼ)絡まない8話では、カサンドラとの会話がメイン。
黒い岩が主題の1話、15話、21~23話ではラプンツェルとの会話がメイン。
このことから、公式がS1のヴァリアンについて、ラプンツェルとの関わりでは主人公の鏡としての役割を、カサンドラとの関わりでは年相応の少年らしいあどけない面を描くという狙いがあるのかもしれないと思いました。ヴァリアンを共感できるアンチヒーローたらしめたのも、このバランスが絶妙だったからではないでしょうか。公式の仕事が丁寧すぎてびびる。

 

 

それをふまえて、カサンドラにだけは、本当の意味でヴァリアンの弱い部分を見せられる存在になればいいなと思うのです。
カサンドラには言ってもらいたい台詞があります。
今後、ヴァリアンと再会し、また彼がひとりでいばらの道を突き進みそうになったときは、手を差し伸べてほしい。


「ひとりでいくつもりなの?アシスタントが必要でしょ」

と。

 

 

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心配しなくても、S2でヴァリアン再登場フラグは立っているので、そのときにいろいろと回収されると思っています。
つうかソロ曲とメインパート盛りだくさんな曲がもらえている時点で、公式から愛情を注がれまくっているとわかるから…!あの子の人生ハードモードなのも愛情ゆえなんですよね…?大丈夫、ぜんぶわかってる……(血涙)

最後に、イメソンであるこの2曲を置いておしまいにしたいと思います。

正直、この2曲さえ聞いてもらえれば上の文章を読んでもらう必要はなかった感さえある。

 

宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ - YouTube

 

【花冠】天野月子 - YouTube